マルチメディアは美術もお茶の間へ

                           その12  岸本 康


 先日、アート・ドキュメンテーション研究会の関西地区部会研究会に参加させて頂く機会がありました。その日のテーマは、アメリカとヨーロッパのアート・ドキュメンテーションについて主に美術館のデータベースの状況を、講師の岩淵潤子さんと谷卓司さんが話しされました。この研究会には、主に博物館のデータベースの担当者や博物館、美術館のデータベースを開発しようとしている企業の方が参加されていて、皆さん熱心に聞き入っておられました。
 博物館、美術館等のデータベースの構築は、使用する状況に合わせてソフトや運用方法がさまざまです。これらのデータの標準化なども今後の課題としてはある様ですが、海外でも作品データベースの電子化は、重要な位置付けがされていて、使い勝手や能力、そして最近のPCの価格ダウンにより、コストのかからない機材を選び、文化施設の運営サイドがメーカーやソフト会社をリードして構築に取り組んでいるというスタイルがあるとの報告がありました。
 作品データベースというと、どうも映像データベースの様に思えますが、最も重要なのは、テキスト情報であるとヨーロッパを代表するオランダの国立美術研究所(rKD)の方は語っておられたそうです。ここでも、電子化は完了していないそうですが、既に350万件の作品データをストックしていて、誰でもが無料で閲覧できる施設になっているようです。
 ちなみにここは、国立の機関ですが、予算周期が4年単位で運営されていて、長期プロジェクトが組みやすくなっているとの岩淵さんらしい指摘など、羨ましくなる海外美術館状況のレポートが多々ありました。
 その中で、特に皆さんが興味を持たれていたのは、ホーム・ページ上で海賊美術館をやっている人達の話題です。趣味でやっているらしいのですが、個人のホーム・ページの中に、自分が理想とする美術館を設計し、作品を配置し、あたかもそんな美術館があるが如くやっている人達がアメリカを中心にいる様です。作品を掲載すると著作権などの問題がある筈ですが、その内容の充実とページの凝り方がとんでもないので、逆に「美術館の理想」を美術館サイドが研究するために良い資料となるという意見も出ているそうです。私も少し拝見したところ、ちょっと笑ってしまうくらい凄いものになっていました。
 それと、もう一つの興味深い話しは、盗難美術品が所有者に戻って来る率が低い理由として、作品写真が無いという事があるそうです。有名な作品でも、どんなものかを警察などの関係者に説明する手段としては、大量のテキストデータがあっても、一枚も写真が無いのでは判別方法が限定されて、特に国外への手配は写真がないと話しにならないそうです。何か大きさの基準になるスケール等と一緒に作品写真を撮っておく事がポイントなので、高価な作品をお持ちの方は是非写真を撮ってみて下さい。
 話しは元に戻りますが、岩淵潤子さんと谷卓司さんの両氏は、実は今年の春から大阪のIMIインターメディウム研究所での同僚(?)で、私も岡部あおみさんとアート・ドキュメンタリーコースという、他の学校には無いレクチャーとワークショップをそこで担当していて、今回こんな研究会がありますよと声を掛けて頂いた訳ですが、参加されている方の年齢層がちょと高かったので、今度は若い方にも是非御薦めしたいと、この場で御報告申し上げる次第です。

[ご参考]

 rKD
国立美術研究所 http://www.konbib.nl/rkd/
 IMI インターメディウム研究所 http://www.iminet.ac.jp/
 海賊美術館サイト
 http://www.lonestar.texas.net/~mharden/
 http://www.mcs.csuhayward.edu/~malek/

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