hatsu-imo: tabaimo 1999-2000 初芋/束芋
初芋:束芋 1999-2000
「初芋」と題したこのビデオは、束芋の最初の記録映像である。彼女の就職試験は失敗の連続だったらしいが、そのために作品発表の機会を得てしまった束芋は、1999年、京都の射手座というギャラリーで「にっぽんの台所」を発表した。そして、神戸アートビレッジセンター主催のアート・アニュアルで「にっぽんの横断歩道」を披露する。束芋は、なんとなくシステム化された日本社会にはめ込まれて育って来た「今の若者」の代表として「普通の自分」を表現している。私はその表現の器用さに驚かされた。高校時代、その生れながらの器用さに自惚れてドロップアウトした経験を持つ彼女は、普通でいる難しさを知っている。 まだ、たった4つしかない彼女の作品の、何がこれほどまでに私を惹きつけてしまうのか分からないが、もしかすると私は、この国「にっぽん」をもっと好きになりたいと思っている一人なのかもしれない。就職試験で束芋を採用しなかった「にっぽんの会社」に感謝したい。
2001年5月 岸本 康
27min. Mono. (C) Ufer! Art Documentary 2001
出演・声:束芋/監督:岸本康/制作助手:湯山ななえ/英語字幕:二村まどか、Anne Appathurai
This video, titled “hatsu-imo”, is the first documentary film on Tabaimo.
Because of the continual failure in her job hunting, Tabaimo was given a chance to present her works. In 1999 she introduced “Japanese Kitchen” at the gallery Iteza in Kyoto. Then at the Art Annual sponsored by Kobe Art Village Center, she presented “Japanese Zebra Crossing”.
Tabaimo expresses ‘an ordinary oneself’, representing the ‘current young generation’ who have grown up within the systematized Japanese society. I was impressed by the skillfulness of her expression.
In high-school days, she experienced becoming a dropout just because of self-conceit in such her inherited skillfulness. She knows the difficulty of being ordinary.
Her works still count only four and I don’t know why they fascinates me so much. Perhaps, I may be one of those who are wanting to like this country, ‘nippon’, much more. I like to thank ‘Japanese Society’ that did not employ her along the recruiting process. (May 2001, Yasushi Kishimoto)
Participant and Narrator: Tabaimo
Director: Yasushi Kishimoto
Production Assistant: Nanae Yuyama
English Subtitles: Madoka Futamura & Anne Appathurai
収録作品紹介
にっぽんの台所
Japanese kitchen, 1999
1999年に「にっぽんの台所」で鮮烈なデビューを果たした束芋。手書きした木版調のアニメーションをコンピュータに取り込んで映像化し、スクリーンに投影するインスタレーション(空間全体を作品として体感させる芸術)を制作している。本作は、束芋を取材した最初の記録映像である。
デビュー作から2000年までに制作されたインスタレーション作品を紹介し、束芋がどのような経緯で美術に出会い、制作に取り組んでいるかを作家本人が語っている。「にっぽんの台所」「にっぽんの横断歩道」「ユメ ニッキ・ニッポン」「にっぽんの湯屋(男湯)」の全4作を完全収録。
大学の卒業制作としてつくられ、キリン コンテンポラリー・アワード1999で最優秀作品賞を受賞した、束芋のデビュー作。日の丸が意匠されたふすまを開けると、畳の向こう側に3面の映像が映し出される。
台所に立つ中年の主婦が、人間の脳を煮炊きしながら、まな板の上で窓際族の亭主の首を切る。電子レンジの中で政治家が何かを連呼している。「高校生が降るでしょう」という天気予報の通り、窓の外では学生が次々とビルから飛び降りる。
にっぽんの台所
撮影場所:キリンプラザ大阪、2000年
にっぽんの横断歩道Japanese Zebra Crossing 1999
横断歩道を描いた床の向こう側に、1面の映像が映し出される。その手前には実物大の点滅する信号機が設置されている。 観客は、横断歩道を挟んだ向かい側の出来事を眺めることになる。君が代のメロディーに乗って、横断歩道を渡る人々が登場する。
胃にあいた穴を自分で繕うサラリーマン。その彼の首を斬る侍もまた、他の侍に首を斬られる。 刺青の中から泳ぎだした鯉の腹の中で、さばかれる金と拳銃。主婦は毒入り茶で夫を殺害する。 男子学生は脳風船を放ち、女子高校生は日の丸の旗を排泄する。
にっぽんの横断歩道
撮影場所:ギャラリー16(京都)、2000年
ユメ ニッキ・ニッポンdream diary-NIPPON
1999
1面の映像インスタレーション。花札を思い起こさせる背景にカタカナで鏡像文字が書かれていく。そのうちの一語だけは鏡像ではなく普通に書かれている。ダツイ(脱衣)、レットウカン(劣等感) 、キョウイク(教育)…。
裸の女性がランドセルを背負う。その指はどこまでも伸びていくはずなのだが、不意にはさみで切られる。皮膚に湿疹のある女性は、ふくらむと湿疹が消え、しぼむと湿疹が出ることをくり返す。牛から肉が切り出され、妊娠した女性からは胎児が取り出される。
ユメ ニッキ・ニッポン
撮影場所:キリンプラザ大阪、2000年
にっぽんの湯屋 (男湯)
Japanese Bathhouse-Gents, 2001
銭湯の男湯へ入る実物大の引き戸を開けると、3面のスクリーンに映像が映し出されている。この3つの映像は同じ空間を描いており、全ての画面が同時進行する。プラスチックの洗面器が床面の所々に置かれ、壁際にもピラミッド型に積まれている。脱衣所に入ってきた男子学生は、服だけでなく自分の皮膚も脱いでいく。裸の女性たちが女湯との境の壁を越えて入ってくる。2人の力士は、組み合っているうちに片方が「吸収合併」される。
湯船から出てきた女性はボストンバックの中へ入って別の女性に連れられていく。中年の主婦は、ロッカーに赤ん坊を入れて鍵を閉める。湯船に捨てられたゴミの山の中でも、平然と湯につかっている人々。警官は発砲した後に湯気の中へ消えていく。最後に「汚い水」は流される。
にっぽんの湯屋(男湯)
撮影場所:キリンプラザ大阪、2000年
収録当時を思い出して
この作品を撮影した2000年当時は、収録機材はデジタル化していたが、販売用にはVHSが主流で、DVDはそれほど普及していなかった。そのためVHSのパッケージには国内で発売するものについても、英語字幕を最初から挿入していた。 また束芋のインスタレーションの映像もVHSで送り出されていた。ギャラリー16で収録した横断歩道は、3台のVHSプレーヤーのスイッチを同時に押して送り出されていた割には、なんとなく同期されているようで、たまにはズレて、そのアナログ感も悪いものではなかった?それは束芋の作品には常にアナログ的、人間的な要素がつきまとっていて、それが関係しているようにも思われた。映像自体の品質もVHSだから当然良くないのだが、そのドロドロとした感じが妙にぴったりとしていて、現在のDVDで送り出される質の高い映像はそれはそれで美しいのだが、このアナログ時代の汚い感じというのが好きだというファンもおられる。
2007年 9月 監督・岸本康
VHS/DVDジャケットより
hatsu-imo: tabaimo1999-2000
出演・束芋 監督・岸本 康
2001年 本編 27分 日本語・English Subtitles