制作記
(旧ADP news、コラム等)
MORIMURA Chapter 2 : This is the Archive 制作記
森村泰昌の活動を映像として記録をはじめて10年以上が経った。
大規模な展覧会については、展示風景も詳細に撮っておけば後々使いやすいであろうと、丁寧に撮り続けてきた。
特に90年代はまだまだアナログビデオが主流だったので、テープのノイズなどが予期できないために、Okシーンを2度以上は記録しておくという念の入れようだった。 撮り始めて数年が経った時に、いったいこれをどんな形にまとめれば良いのか少し迷っていたが、1つのドキュメンタリーの中で見せるにはあまりに膨大であったのと、ある程度貯まった時に見ると資料としての価値もあるのではないかと思えたため、結局は今回のようなアーカイブをDVDというメディアで構成することにした。
編集は展覧会を入口から出口まで丁寧に見せるというコンセプトで行なった。展覧会を見に行った人も見なかった人にも客観的にその展示がどんなものであったかを再現する映像にしたつもりだ。しかし、いくつか編集を終えてみると会場の音をそのまま使った編集では何かものたりない。音のある作品は別として、写真や平面の作品の部屋ではその空間の音だけがほとんど無音に近い形で聞こえるだけである。
元々美術館にはBGMが使われることは稀で、ほとんどの場合は無音であり、空間の音なのだが、映像にしたとき、いくらこの無音を丹念に再現できたとしても、やはり少し退屈だ。
そこでちょっと考えた。この映像の副音声に森村さんの作品解説が本人の声で入っていると面白いのではないか。その昔、「金高かおるさんの世界の旅」という番組があったが、当時16ミリフィルムで収録されていたためか、音声は現場の生の音よりも、その映像を見ながら話す金高さんの声と質問や相づちをする男性の声で構成されていた様なことを思い出した丁度、Chapter1の上映会を予定していたのでその時に、ライブで実現できればと思い、森村さんに編集した映像を見せて、このプランについて話をしたところ、面白そうなのでやってみようという事になった。
ところがである。森村泰昌という美術家はサービス精神が旺盛で、やるとなったらしっかりとやりたいということになって、結局、映像に合わせて語られるトークは私の相づちはなく、森村泰昌の熱弁が響いたのであった。結果はその時の観客の人たちには大盛況で、言葉を廃して作ったChapter1よりも分かりやすくて好評だった。ただ本人の森村さんは、映像に合わせて話をするのはとても難しかったらしく、「岸本くんに騙された」を連発していた。
今回のChapter2には、京都と兵庫で行なった時の上映会で上映した4つの展覧会の映像について、森村泰昌のギャラリートークのような解説が入っている。当初、副音声にしようと考えていたが、でき上がったDVDでは勿論、主音声である。 また、このDVDには動画からスライドショーを見るリンクを設けて、展示風景で見る作品をより詳細に見ていただきための静止画データをスライドショーとして収録している。この静止画はメニューから連続したスライドショーだけ見ることも出来る。
90年代から美術の分野でも「動画アーカイブ」という言葉が重要であるという方向でささやかれる様になってはいたが、様々なことが壁になり体系的な動画アーカイブというものが作られて来なかったように思う。展覧会の開催の予算に比較すると、ほんのわずかな予算で記録が残せるということをもう少し積極的に考えていただいても良い時期にきているのではないだろうか。このChapter2がそんな思いを持てるきっかけになれば嬉しい。