初芋:束芋 1999-2000
「初芋」と題したこのビデオは、束芋の最初の記録映像である。彼女の就職試験は失敗の連続だったらしいが、そのために作品発表の機会を得てしまった束芋は、1999年、京都の射手座というギャラリーで「にっぽんの台所」を発表した。そして、神戸アートビレッジセンター主催のアート・アニュアルで「にっぽんの横断歩道」を披露する。束芋は、なんとなくシステム化された日本社会にはめ込まれて育って来た「今の若者」の代表として「普通の自分」を表現している。私はその表現の器用さに驚かされた。高校時代、その生れながらの器用さに自惚れてドロップアウトした経験を持つ彼女は、普通でいる難しさを知っている。
まだ、たった4つしかない彼女の作品の、何がこれほどまでに私を惹きつけてしまうのか分からないが、もしかすると私は、この国「にっぽん」をもっと好きになりたいと思っている一人なのかもしれない。就職試験で束芋を採用しなかった「にっぽんの会社」に感謝したい。
2001年5月 岸本 康 |