imo-la: tabaimo -2007- 束芋

束芋のドキュメンタリー第三弾

世界から注目される作家になった束芋。複数のスクリーンにアニメーションを投影するインスタレーションを制作するというスタイルは変わらないが、現代日本の日常風景をモチーフとした初期作品を経て、近年は、より抽象的で内面的な世界へ表現の幅を広げている。
 本作imo-laでは、「hanabi-ra」(2003年)から2007年ヴェニス・ビエンナーレに出品した最新作「dolefullhouse」までの4年間に制作された作品とその制作過程、展覧会などを、束芋へのインタビューを交えながら振り返る。 
 最初に登場する「hanabi-ra」は音の付いていない無音の作品。キリンプラザ大阪のできやよいとの2人展で発表されたこの作品は数少ない1台のプロジェクターによる投影。 繊細に描かれた1枚1枚の花びらが舞い降りる。その後、東京、ニューヨークのギャラリーの個展や原美術館での個展でも展示された。

アトピーに悩む自らの手をモチーフとし、360度の円筒スクリーンと手着彩に挑戦した大作「ギニョる」(2005年)。  直径5m、高さ約2mの円柱状のスクリーンが宙に浮かび、アニメーションが映し出される。従ってこの作品には右端や左端といった切れ目はなく、360度全方向に展開される。

ギニョる」のイメージは、スクリーンの内側と外側からも見られるが全景を一度に見渡せることはない。それがこの作品の形のコンセプトにもなっている。
 デンマークのオーフスで初展示の後、東京、大阪でも展示。

インタビューで「あっこれが本当に私の思うベストだな・・・」と振り返った、2006年の原美術館での個展。
 新作として「真夜中の海」「ギニョラマ」「公衆便女」の三作。原美術館の展示室空間を利用した展示は大きな話題になり、週末には作品の前に長い順番待ちの行列ができた。 
「真夜中の海」は、それまでの作品にはない白と黒の世界。スクリーンを階上からのぞき込むという設えと具体的でありながら抽象的な展開を見せるストーリーが融合し、束芋の新たな展開を見せた。

2006年秋には、カルティエ現代美術財団(パリ)での個展。
 旧作「通勤快速」「お化け屋敷」と「真夜中の海」の天井に投影したバージョンを披露。ニューヨークでの個展(2005年)での印象と比較しながらフランスでの感想を語る。

最後にヴェニス・ビエンナーレに出品した「dolefullhouse」。 ドールハウスという閉じた空間をモチーフに現代社会の動きを投影している様にも見える。

「作品の完成形が想像できてしまうと作らない、驚きをもって形になってこないと面白くない」と言う束芋。彼女は今後どこへ向かうだろうか。

DVDの付録では、本編に登場するインスタレーション「hanabi-ra」「ギニョる」「真夜中の海」「ギニョラマ」「公衆便女」「にっぽんの通勤快速」「お化け屋敷」「にっぽんの湯屋」全8作品を個別に全編収録。前作「oimo」でも「にっぽんの通勤快速」「お化け屋敷」を収録したが、今回は若干違ったアングルや編集で紹介した。 加えて、2003年から2005年に開催された本編に未収録の展覧会6会場とそのメイキングを収録。

Third documentary of TABAIMO

Born in Hyogo in 1975, Tabaimo is a phenomenon in Japan. A major retrospective of her works was presented at Tokyo’s Hara Museum in 2006.

Her video installations, which incorporate animated films, draw their inspiration from the current social and economic problems, revealing the underbelly of Japanese society.

Her animations combine the nuanced colours of traditional engravings with the sophisticated technology of the computer.

What is it about her pessimistic and phantasmagoric world that captures the interest of so many people?
What will she do next ?

In addition to Ginyo-ru, her most important work since hanabi-ra in 2003, this film surveys her retrospectives at the Hara Museum, the Fondation Cartier, where Tabaimo presented her first solo exhibition in Europe in 2007, as well as the Venice Biennale, reflecting her output over the last eight years. 

作品紹介

アーカイブとして収録した束芋の近作8作品についての概要を紹介。(文・湯山ななえ)

hanabi-ra

1面スクリーンで音の無い作品。黒いカラスのような鳥たちが飛び交った先に首の無い男性の後ろ姿が投影される。彼は、色とりどりの菊の刺青を全身にまとっている。その菊の花びらが、ひとつまたひとつと散っていく。一匹の鯉が花の間を泳いでいく。はらはらと次第に勢いを増しながら散る花びら。すべての花が散った後、男性の指が落ちはじめる。手、腕、首に続き、胴体も花びらと同様にひらひらと散る。一匹の蛾が横切る。後に残るのは、葉と枝ばかりである。

hanabi-ra
2003|Approx. 4’24”

撮影場所:キリンプラザ大阪、2003年Filming:Kirin Plaza Osaka, 2003

ギニョる Ginyo-ru

天井から吊られた360度の筒型スクリーンに映像が投影される大型インスタレーション。円筒の中に入りスクリーンに取り囲まれる形、あるいは外からスクリーンを眺める形と様々な角度から鑑賞することができる。
 タイトルは、フランス語で指人形を意味する「ギニョル (guignol)」に由来する。黒い画面にいくつか合体したような白い手が浮かび上がる。まるで生き物であるかの如く形を変えながらうごめく手足。いくつも現れて、時には互いをつかみあいもつれあう。ときおりネオンの明かりのように三原色に色づき、その血管をあらわにする。音を立てて登場した戦車型のミシンが、手の切れ目を縫い合わせる。水泡が現れては消える。画面いっぱいにうごめいていた手が消えた後、水泡から出てきた虫がふらふらと飛び去っていく。
 アトピー性皮膚炎に長年悩まされてきた束芋が、自らの手をモチーフにして紡ぎだした作品。

ギニョる|Ginyo-ru
2005|Approx. 5’45”

撮影場所:AroS Aarhus Kunstmuseum(デンマーク)、2005年
Filming:AroS Aarhus Kunstmuseum(Denmark), 2005

真夜中の海 midnight sea

原美術館の吹き抜けの展示室をのぞむ中二階バルコニーを利用した2面スクリーンの作品。
 観客はまず黒いカーテンで仕切られた暗く狭い空間に入り、郵便受けのような覗き穴を通して床に投影された映像を垣間みる。その後、階段を上ってバルコニーから映像全体を見下ろす。カルティエ現代美術財団では、テントの天井にスクリーンが設置され、観客はテントの中に入って傾斜した床に体を横たえて鑑賞する展示形式をとった。 
  打ち返す波の音が聞こえてくる中、海中にひそむ内蔵が暗闇にぼんやりと浮かぶあがる。そこにかぶさるように現れ、次第に勢いを増す波。海を人体にみたてた「真夜中の海」では、水面は皮膚であり、波はこれまでの人生の歩みを示す皺である。海中の内蔵や血管の間を、白い髪の毛(=神の気)が魚のようにすり抜けていく。カミノケは、水面にも姿を現し波間を自在に動き回る。 
  ストーリーの抽象性に加えて全編モノクロの世界を表現した、束芋の新境地ともいうべき作品。

真夜中の海|midnight sea
2006|Approx. 4’42”

撮影場所:原美術館、2006年    Filming:Hara Museum of Contemporary Art, 2006

ギニョラマ guignorama

原美術館のサンルームの外にある庭に曲面スクリーンを設置し、中から映像を投影するインスタレーション。
 日没後でなければ、投影された映像は見えない。昼間は音と窓枠に、かすかに映る映像から想像するのみである。「ギニョる」と同じ原画を使用しているが、手足以外のモチーフは登場しない。夜に浮かび上がる映像にはガラスの反射も加わって幻想的な雰囲気が漂う。

ギニョラマ|guignorama
2006|Approx. 3’09”

撮影場所:原美術館、2006年     Filming:Hara Museum of Contemporary Art, 2006

公衆便女 public comVENience

3面の大型スクリーンに投影された映像が同時進行する。舞台は女子用の公衆便所。男湯を舞台とした「にっぽんの湯屋」の対となる作品である。 
  一人の女性が公衆便所でトイレの水を何度も流している。その便器の中には亀がおり、水の流れに逆らって必死に留まろうとしている。別の個室から下着姿でランドセルを背負った女性が出てきて、洗面台で何かを洗っている。窓から入ってきた蛾の眼はカメラのレンズになっており、次々とシャッターが切られる。携帯電話を便器に落としてしまった女性は、水着姿になり命綱をつけて便器へ飛び込む。洗面台の鏡の中に映る自分から暴力を振るわれた女性は、血の流れる手首にトイレットペーパーを巻きつけ、再び個室へと戻っていく。また別の女性は、苦しそうに個室へと入っていき、鼻から産み落とした赤ん坊を亀の背に乗せて便器に流す。
  公衆便所は、誰にでも開かれた空間でありながら、それぞれの個室は閉ざされ、他人とすれ違っても互いに無関心を装っている。公衆便所にインターネット社会との類似点を見いだして制作された作品。

公衆便女|public comVENience
2006|Approx. 6’01”

撮影場所:原美術館、2006年      Filming:Hara Museum of Contemporary Art, 2006

にっぽんの通勤快速 Japanese Commuter Train

通路をはさんで左右に3面ずつ、6面のマルチスクリーンを駆使した映像インスタレーション。
  通路に立つ観客はまるで自分も乗客であるがごとく、車内で起こる出来事に包まれる。2001年の制作時に比べて映像がヴァージョンアップされ、フランスでの展示用にタイトルが全てフランス語に差し替えられている。 
  鶏の鳴き声にのせて人々の口から流れ出す言葉の断片が、週刊誌の中吊り広告に収まっていく。子供の首を吊り革に引っかけ、抱いていた赤ん坊は棚に置いて去っていく若い母親。鳴りだした携帯電話からのびる赤い糸に誘われるように窓から飛び出す女性。スポーツ新聞から取り出した野球選手をネタに寿司をにぎる職人。女子高生をネタにした寿司を賞味するサラリーマン。チカンの腕が折りとられて床に積み重なっている。捕まったチカンを閉じ込めた車両も、とかげのしっぽのごとく切り離される。
  ほとんど誰もいなくなった車内を掃除する係員。居眠りをしている乗客は線路の上に取り残される。

にっぽんの通勤快速|Japanese Commuter Train
2001|Approx. 8’03”

撮影場所:カルティエ現代美術財団(パリ)、2006年                  Filming:Hara Museum of Contemporary Art, 2006

お化け屋敷 Haunted House

投影された映像が半円を描きながら行ったり来たりする1面のインスタレーション。
  画面は四角い初期バージョンとは異なり円形である。観客は、住宅地の各家庭で展開する出来事を望遠鏡を通して覗き見ているような感覚である。水色とベージュを中心とした明るい色調とポップな音楽が醸し出す軽妙な雰囲気とは裏腹に、部屋の中では、殺人や自殺が淡々と行われている。
  登場人物たち(あるいは彼らの想念)がゴジラのように巨大化し立ち上がってくる後半は、一見平和に見えた日常が一瞬にして崩壊していく怖さを感じさせる。

お化け屋敷|Haunted House
2003|Approx. 3’58”

撮影場所:カルティエ現代美術財団(パリ)、2006年              Filming:Fondation Cartier por l’art contemporain(Paris), 2006

にっぽんの湯屋 (男湯) Japanese Bathhouse-Gents

銭湯の男湯へ入る実物大の引き戸を開けると、3面の大型スクリーンに映像が映し出されている。
  この3つの映像は同じ空間を描いており、全ての画面が同時進行する。プラスチックの洗面器が床面の所々に置かれ、壁際にもピラミッド型に積まれている。アメリカでの展示用にタイトルは全て英語に差し替えられている。 
  脱衣所に入ってきた男子学生は、服だけでなく自分の皮膚も脱いでいく。裸の女性たちが女湯との境の壁を越えて入ってくる。2人の力士は、組み合っているうちに片方が「吸収合併」される。湯船から出てきた女性はボストンバックの中へ入って別の女性に連れられていく。中年の主婦は、ロッカーに赤ん坊を入れて鍵を閉める。湯船に捨てられたゴミの山の中でも、平然と湯につかっている人々。警官は発砲した後に、湯気の中へ消えていく。
  最後に「汚い水」は流される。

にっぽんの湯屋(男湯)|Japanese Bathhouse-Gents
2000|Approx. 7’34”|Aspect 4:3

撮影場所:ジェームス コーハン ギャラリー(ニューヨーク)、
2005年               Filming:James Cohan Gallery(New York),
2005

展覧会紹介

DVDの付録として、本編では紹介できなかった展覧会などを収録した。(文・湯山ななえ)

にっぽんのちっちゃい台所 Japanese Little kitchen Gallery Koyanagi, Tokyo
July 29 – September 6,2003| Approx. 1’20”

デビュー作「にっぽんの台所」のミニチュア版である「にっぽんのちっちゃい台所」とインスタレーション作品に登場するモチーフを描いたドローイングで構成された展覧会。

Mediarena:contemporary art from japan Govett-Brewster Art Gallery, 
New Plymouth,New Zealand March 13 – June 7, 2004| Approx. 2’04”

ゴヴェット ブリュースター アート ギャラリー(ニュージーランド)2004年 ニュープリマスで開催された日本の現代美術を紹介するグループ展に束芋が出品した「にっぽんの御内」の設置風景を見ることができる。

束芋 × でき やよい にっぽんの、ななかむら                    Tabaimo × Deki Yayoi. Nippon no, nanakamura           Kirin Plaza Osaka, Osaka
July 18 – August 31, 2003| Approx. 2’53”

映像インスタレーション作品3点「にっぽんの御内」「お化け屋敷」「hanabi-ra」の他、学生時代の習作「眠り過ぎた日本人の話」および文芸書「群像」の表紙のために描かれた挿絵を展示。

TABAIMO James Cohan Gallery, New York, USA
March 4 – April 2, 2005| Approx. 4’50”

「にっぽんの湯屋」の設置風景を中心に、壁にドローイングを描いていく束芋やオープニングの模様を収録。「hanabi-ra」と旧作インスタレーション作品を題材に制作されたリトグラフも展示された。 

束芋ー夢違え                    TABAIMO – yumechigae            Hara Museum ARC, Gunma
July 26 – October 26, 2003|Approx. 2’07”

展示会場の壁に直接描いていく束芋の姿を「にっぽんの御内」の設置風景をまじえながら紹介する。
 「夢違え」は実際に束芋の見た夢を起きた時に書き留めておいたメモから作った物語をドローイングしたシリーズ。ドローイングと絡めて、左手で書かれた反転された文字で物語を形成するインスタレーション作品。

束芋 指弁 yubibira Gallery Koyanagi, Tokyo
May 24 – June 24, 2005| Approx. 7’43”

映像インスタレーション作品「hanabi-ra」と新作ドローイングを合わせて構成。 ドローイング作品は、「虫遊び05」「指弁」「『カエルの王様または鉄のハインリッヒ』のための原画」と3つのシリーズを展示し、束芋の肉筆をじっくりと鑑賞することができる。

mo-la: tabaimo -2007-

2007年 監督・岸本 康本
mo-la 本編映像51分+64分
日本語・English Subtitles・French Subtitles
第26回FIFAモントリオール国際芸術映画祭入選

AmazonでのDVD販売

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