SUGIMOTO 杉本博司 Hiroshi Sugimoto
Intorduction
2008年から5年間、杉本博司の作家活動を追いかけた。写真作品を中心に立体から舞台、美術コレクションまでを手がけ、妥協をせずに何でも自分でやってみないと気が済まないアーティストは、どんな風に時間を使っているのだろうか。様々なアイデアを具体的な形として作品化してゆく過程を堪能しながら、研ぎ澄ました作品を創出してきた杉本。その根幹には常に人はどこから来てどこへ行くのかという作品コンセプトと共に、人類の行く末を憂いでいる姿がある。
本作品はインタビューを軸に渡米から今日に至るまでの経緯や、8×10写真へのこだわりを紹介。また杉本作品の中核のひとつであるジオラマシリーズをアメリカ自然史博物館で撮影する杉本に同行し、現像、プリントの一連の工程を初めて動画に収録。金沢21世紀美術館や国立国際美術館での個展のメイキングやイズ・フォト・ミュージアム、原美術館での造園作業、杉本文楽のメイキングなどを紹介すると共に、駄洒落好きでオチがないと満足しない、徹底して人生を楽しむ杉本博司という作家に出会っていただける。
The film follows the artistic life of Hiroshi Sugimoto from 2008 to 2013. While an established photographer, the artist also produces sculpture, performance and has his own art collection. Given his tendency to perfectionism, how he is able to manage his time among his various projects is a mystery. Sugimoto enjoys the process in which his ideas realize concrete form and has produced many brilliant works. All his work seems to share the question, where do we come from and go from here, in common, raising issues about the fate of mankind in the process.
In the film, Sugimoto himself talks about his journey since his debut in the US and his career up to today, and his fascination with 8×10 photos. The film also comprehensively captures the artist’s production process for the first time, including a diorama photo shoot, one of his most well-known works, at the American Museum of Natural History, as well as developing and printing at his studio. Going backstage at his exhibition at the 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa, The National Museum of Art, Osaka, Izu Photo Museum, Hara Museum and of his Bunraku performance, the film reveals Sugimoto’s playful, yet rigorous, enjoyment of life.
Production Diary
「杉本博司を知ったつもりでいませんでしたか?」 岸本 康
美術ドキュメンタリーの制作で思うのは、普段作品からは見えない視点で作家を紹介出来れば、さらに作品に対する見方や考え方がかわるのではないかということだ。杉本博司という人を記録対象に選んだ最初のきっかけは、2005年の出来事だ。束芋の個展がニューヨークのジェームス・コーハン・ギャラリーであった。その時展示した束芋の「にっぽんの湯屋」という作品はインスタレーションで展示室に入る所に銭湯の引き戸が設置される。日本から大工さんが作った引き戸が送られて来ていたが、図面に手をかける凹みが記入されていなかったために、それを現地で作らなければならなかった。
杉本スタジオはジェームス・コーハンと同じ26丁目で、散歩ついでに杉本さんが遊びに来られて、ノミがあるので後で持ってくると言われていた。数時間後杉本さんは宮大工が使う長い持ち手のノミを数本持って現れた。
お貸しいただければ私がやりますと申し出たが、杉本さんはにこにこしながら工具袋からノミと槌を取り出すと作業を始めてしまった。自分でやりたかったのだ。その姿には工作に対する自信と、美しく仕上げないと気が済まないという職人気質があって、作家杉本博司の本質を見た様な気がした。結局、私はノミを借りる事なくその作業を見ているだけだったので動画記録した。束芋のDVD「imo-la」の展覧会紹介に少しだけそのシーンを加えている。おそらく杉本さんを初めて撮影したのはこの日だった。
それから3年目の2008年にモントリオールの映画祭で観た杉本博司の初めてのドキュメンタリーとも言えるマリア・アンナ・タピエナ監督のHIROSHI SUGIMOTO : VISIONS IN MY MINDを縁あって日本語字幕を付けて日本で発売することになった。作品や作家活動の基本的な部分はこの作品に納められているが、私としてはもう少し踏み込んだ杉本博司の歴史や作家としての面白さ等を記録できればと思っていた。
また作品に向き合う姿とはまったく違った、2次会で料理人の格好でだし巻きを作る姿や、3次会のカラオケでの司会や熱唱もチラリと収めている。
この展覧会「歴史の歴史」は2009年に大阪の国立国際美術館にも巡回したが展示方法を展示室に合わせて変化させているところを本編では主に採用している。この年は他に大原美術館の有隣荘やベネチアなどでも展覧会があったが、ベネチアのファッションのシリーズに関しては本編のテーマと結びつけるのが難しかったのでアーカイブにインタビューシーンを別途収録した。インタビューの最後には杉本氏自ら演出のワンカットが入っている。
2009年にオープンしたイズ・フォト・ミュージアムではオープニングが杉本展だったが、その美術館の内装デザインも杉本によるもの。エントランス正面の箱庭や展示室の窓から見える石積みの施された庭も杉本が監修し作業にも立ち合っている。何日も通って石積みをひとつひとつ指示しながら構築する様子などを収録。
2010年の夏は瀬戸内国際芸術祭の展示をアーカイブに収録。休校中の小学校にある物を使ってのインスタレーションと自ら書いたテロップ。2010年の秋から1年間を通じて4章に分けて行われた丸亀猪熊弦一郎現代美術館の展示も本編の中でも紹介している。特に最後の方に登場する和ろうそくで8×10のフィルムを投影するインスタレーションはなかなか美術館では展示再現出来ないものだと思う。(通常美術館の展示室は火気厳禁である)
2012年は原美術館の「ハダカから被服」へと題された展覧会では、キャプションに自ら執筆して作品解説的洒落文を配置、それを和製本した洒落本もカタログとして販売された。しかし本人曰くこの展覧会で一番力を入れたのは造園で、美術館展示室から見える庭に空調機の室外機が見えるのでそれを隠す垣根「わるあがき」を竹ぼうきを利用したデザインで制作。またそれに合わせて灯籠の配置を替えたり原美術館のサンルームから見える景色が少し変った。
本編の中でも自分の作品と自分の買ったものを一緒に展示する事が多くなったと語っているが、実は気に入って拾った物も一緒に並べたりしていてる。年末のクリスティーズのオフィースのリニューアルのデザインを手がけて、ギャラリースペースで杉本展が開催された。「不用品高価買入れ」の古びた看板はオークション会社へのオマージュ的インスタレーション。
実はこの年に大きな出来事があった。杉本作品の中心的シリーズのジオラマを37年ぶりにアメリカ自然史博物館で撮影するという連絡を頂いた。最初は春頃にという話だったが、本編でも語られている様に許可申請が進まず結局9月の撮影になった。そしてこの撮影で撮られたのは原生の風景。今再び撮りたくなった理由というのが、このドキュメンタリーのテーマになった。そしてこだわりの8×10で撮影シーンだけでなく、現像、プリントに至る一連の工程を動画記録で初めて収録。
やっと写真家らしいシーンも撮れたので、2013年を使ってようやくまとめる事が出来た。
とても興味深かった雑誌ブルータスの「杉本博司を知っていますか?」が発売されてから5年余り。今回のドキュメンタリーは「杉本博司を知ったつもりでいませんでしたか?」という内容になったのではないかと思う。
Archive
1. 歴史の歴史
Nov. 22, 2008 - Mar. 22, 2009 金沢21世紀美術館
History of History
21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa
38min.
自作と蒐集したコレクションを一緒に展示した個展。
本編ではそのメイキングも収録。
2. 歴史の歴史
Apr. 14 - Jun. 7, 2009 国立国際美術館
History of History
The National Museum of Art, Osaka
17min.
金沢からの巡回。作品によって展示。
展示室の壁面に貼った鏡を割るパフォーマンスを本編に収録。
3. collection
Apr. 2009 ベネッセハウス ミュージアム
Benesse House Museum (Naoshima)
3min.
変則的な形状の展示室に合わせた作品配置と床に置かれた杉本デザインの白く光る四角柱形状の照明器具で構成された。
五輪塔の設置風景も収録。
4. 今児島 – アート・建築・拾集
Apr. 25 - May 17, 2009 大原美術館 有隣荘
IMAKOJIMA-ART, ARCHITECTURE, COLLECTION
Yurinsou, OHARA MUSEUM of ART (Kurashiki)
3min.
大原美術館のコレクション形成にも携わった児島虎次郎がもしも現代に生きていれば、こんな展示をしたのではないかという杉本仮説による杉本コレクションと自作の展示。
5. interview
Jun. 2009 Punta della Dogana (Venice)
3min.
ベネチアの大運河の対岸から建物を背景にプンタ・デラ・ドガーナでの展示について語る。インタビューの最後に自らの演出による一言。
6. Mapping the Studio (group show)
Jun. 6, 2009 - Dec. 31, 2010 Punta della Dogana (Venice)
5min.
プンタ・デラ・ドガーナのオープニング展でマウリシオ・カテラン(Maurizio Cattelan)の彫刻との展示風景。
フランチェスコ・ボナミ(Francesco Bonami)のキューレーション。
7. 放電場
Sep. 8 - Oct. 10, 2009 ギャラリー小柳
Lightning Fields
Gallery Koyanagi (Tokyo)
4min.
カメラを使わないでフィルムに直接静電気で描かれた放電場シリーズ。
8. 光の自然 (じねん)
Oct. 26, 2009 - Mar. 16, 2010 IZU PHOTO MUSEUM
NATURE OF LIGHT
IZU PHOTO MUSEUM (Mishima)
7min.
オープニングの記念展としての個展。放電場シリーズと写真を発明したタルボットの現存するフィルムを印画紙にプリントした作品。またこの美術館の内装と庭の造園も杉本による。本編ではそのメイキングも収録。
9. 瀬戸内国際芸術祭2010
Jul. 19 - Oct. 31, 2010 福武ハウス (女木島)
Setouchi International Art Festival 2010
FUKUTAKE HOUSE (Megijima, Kagawa)
2min.
女木島にある休校中の女木小学校の庭にある使われなくなった備品によるインスタレーション。タイトルの札も杉本書。
10. アートの起源|科学
Nov. 21, 2010 - Feb. 20, 2011 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
ORIGINS OF ART | Science
Marugame Genichiro-Inokuma
Museum of Contemporary Art (Kagawa)
6min.
杉本の1年に渡る個展の第1章。プリズム硝子を透した日光をポラロイドカメラで撮ったシリーズや放電場によるインスタレーション。
11. アートの起源|建築
Mar. 6 - May 15, 2011 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
ORIGINS OF ART | Architecture
Marugame Genichiro-Inokuma
Museum of Contemporary Art (Kagawa)
5min.
フォーカスを無限大の倍にして撮影された建築シリーズ、古木を使ったインスタレーション、数理模型シリーズ、そして蝋燭の炎を撮影したフィルムを蝋燭の火の光で投影するインスタレーション。
12. アートの起源|歴史
May 29 - Aug. 21, 2011 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
ORIGINS OF ART | History
Marugame Genichiro-Inokuma
Museum of Contemporary Art (Kagawa)
8min.
マダムタッソーの蝋人形を撮影したシリーズ、ファッションのシリーズ、と写真を発明したタルボットの現存するフィルムを印画紙にプリントした作品。ジオラマのシリーズを小さな箱に入れて壁面に並べたインスタレーション。
13. アートの起源|宗教
Aug. 28 - Nov. 6, 2011 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
ORIGINS OF ART | Religion
Marugame Genichiro-Inokuma
Museum of Contemporary Art (Kagawa)
5min.
海景シリーズ、三十三間堂、五輪塔
14. ハダカから被服へ
Mar. 31 - Jul. 1, 2012 原美術館
From naked to clothed
Hara Museum of Contemporary Art (Tokyo)
13min.
ファッションのシリーズを中心に、この展覧会では原美術館の裏庭の造園も行う。特に空調の室外機の目隠しとして考えられた「悪亜垣」は竹ぼうきを組み合わせて作られた。
15. 杉本博司コレクション展
Dec. 7 - 8, 2012 クリスティーズジャパン
Sugimoto Collection and his artwork
CHRISTIE’S Japan (Tokyo)
2min.
東京の丸の内の明治生命館(1934年竣工)に移転した同社のオフィスとして杉本が内装デザインを行う。オープニング記念の杉本博司展。
Trailer
予告編右上のVimeoのリンクから1週間のレンタル、ダウンロード販売へ進んでいただけます。
SUGIMOTO
2014年 出演・杉本博司 監督・岸本康
SUGIMOTO 本編 66分 日本語 ・English Subtitles
アーカイブ 120分
2012 Japanese/English Subtitles
Appearance by Hiroshi SUGIMOTO
Directed by Yasushi KISHIMOTO
Original story 66min.
Archive footage 120min.