通路をはさんで左右に3面ずつ、6面のマルチスクリーンを駆使した映像インスタレーション。通路に立つ観客は、まるで自分も乗客であるがごとく、車内で起こる出来事に包まれる。鶏の鳴き声にのせて人々の口から流れ出す言葉の断片が、週刊誌の中吊り広告に収まっていく。子供の首を吊り革に引っかけ、抱いていた赤ん坊は棚に置いて去っていく若い母親。鳴りだした携帯電話からのびる赤い糸に誘われるように窓から飛び出す女性。スポーツ新聞から取り出した野球選手をネタに寿司をにぎる職人。女子高生をネタにした寿司を賞味するサラリーマン。チカンの腕が折りとられて床に積み重なっている。捕まったチカンを閉じ込めた車両も、とかげのしっぽのごとく切り離される。ほとんど誰もいなくなった車内を掃除する係員。居眠りをしている乗客は線路の上に取り残される。 撮影場所:横浜赤レンガ倉庫(横浜トリエンナーレ会場)、2001年
2000年のバージョンである1面スクリーンの映像に加えて、2つのプロジェクターが追加され、左右の壁面にも時々丸い映像が浮かび上がる。正面の映像では、花札を思い起こさせる背景にカタカナで鏡像文字が書かれていく。そのうちの一語だけは鏡像ではなく普通に書かれている。ダツイ(脱衣)、レットウカン(劣等感)、キョウイク(教育)…。裸の女性がランドセルを背負う。その指はどこまでも伸びていくはずなのだが、不意にはさみで切られる。皮膚に湿疹のある女性は、ふくらむと湿疹が消え、しぼむと湿疹が出ることをくり返す。牛から肉が切り出され、妊娠した女性からは胎児が取り出される。 撮影場所:水戸芸術館現代美術ギャラリー、2002年
観客参加型の映像インスタレーション。茶の間を模したセットの中で、観客はちゃぶ台にすわり、ネズミ型のマウスと足下にあるフットスイッチを使って正面の映像を操作する。茶の間から台所、子供部屋、浴室、トイレなどを自由に行き来することができ、家具をクリックすることによって、それぞれの部屋で起こる出来事を目の当たりにする。「にっぽんの台所」や「にっぽんの湯屋」に出てくるエピソードが取り入れられている場合もあるが、さらに内容を発展させたものもある。台所の主婦は、「高級男性脳」と記された瓶詰めを使用し、鍋で煮立つ脳から出てくる裸の女性たちをすくっては捨てる。テレビの料理番組では、1組の男女をミキサーにかける料理を紹介しているが、見ている主婦はあふれるほどの男女をミキサーに入れる。茶の間の畳の下からは、ネズミ達が這い出してくる。登場人物である主婦、男子学生、女子高生は部屋を行き来していても、互いに交わることはない。 撮影場所:ベルギー王立美術館(ブリュッセル)、2002年
投影された映像が半円を描きながら行ったり来たりする1面のインスタレーション。画面が四角い初期バージョン(現在は円形)である。観客は、住宅地の各家庭で展開する出来事を望遠鏡を通して覗き見ているような感覚である。水色とベージュを中心とした明るい色調とポップな音楽が醸し出す軽妙な雰囲気とは裏腹に、部屋の中では、殺人や自殺が淡々と行われている。登場人物たち(あるいは彼らの想念)がゴジラのように巨大化し立ち上がってくる後半は、一見平和に見えた日常が一瞬にして崩壊していく怖さを感じさせる。 撮影場所:康ギャラリー(東京)、2003年