「veni-imo」は2011年のベネチア・ビエンナーレの日本館に展示された束芋のインスタレーションの記録である。「teleco-soup」と題されたインスタレーションは、高床式の日本館の建物の屋内と屋外を使い、それらが一体化した作品になっている。日本館の床には元々中央に穴が開いていて、それを井戸のようにして、室外で見せるスクリーンを設置した。その映像を室内側からも覗いて見えるようにし、映像の全てが同期進行する大掛かりな作品となった。
ベネチア・ビエンナーレの日本館で発表する事は日本の代表である。それは美術のオリンピックと言われるほどに各国は総力を上げて展示に挑む。日本ではこの大イベントが年度行事的な位置づけでしかなく、作家が選定されるのは開催のわずか1年前、そこから下見が始まる。この短期間に制作から設置までを行い、それを開催期間の6ヶ月間維持するというのは、インスタレーションを制作する作家にとっては簡単なことではない。この貴重すぎる11ヶ月の準備期間の経験と、もう再現出来ない作品を資料や束芋のインタビューと共に記録映像で残そうと決めた。
人間の視野で見ていても数回見ないと理解できない作品を、カメラのレンズを通して切り取り編集して、ドキュメンタリーとして見せる事はとても難しいと思った。また、暗闇から明るいイメージまで大きな輝度差があることも撮影するカメラの質が問われる厳しい条件だった。6月のオープン時に撮影を行なったが、もっと感度が高く良いカメラで撮影が出来ればと実感した。そんな事もあって、秋頃にカメラを新調し、再びベニスへ。11月の最終週に間に合って撮影を終える事ができた。作品の全景シーンはほとんどこのカメラで撮影したものを使っている。
作品は屋外も使っていたので、初夏から晩秋へと季節で見え方が変化し、秋口の日没時や夜の風景も奇麗だった。その経験から本編では時間帯を変えて作品が約3回流れるように構成にした。また、屋内外の映像がどのようにリンクしていたかを検証できるように、追加トラックでは1画面で両映像を見せて繋がりが理解できるようにした。
2004年から私は束芋の技術担当として機材の選定から設置、それに合わせた映像に関する様々な事をサポートしている。今回のビエンナーレも展示優先、作品の完成が最重要課題としてきた。その結果、制作途中の映像素材が少なくなってしまったが、施工して下さった大工さんや関係者から写真を借りて、メイキングの様子や現場の雰囲気が伝わるように編集ができ、完成した。
実際に「teleco-soup」をベニスで体験した方にはそれが蘇り、初めて見る方には少しでもそれがどんな作品であったかがお伝えできればと思う。また将来ベネチア・ビエンナーレで展示される方に、何かのヒントになれば幸いである。
ウーファー・アート・ドキュメンタリー 岸本 康